卵管留水腫について
卵管留水腫(らんかんりゅうすいしゅ)とは、卵管に水が溜まって腫れてしまう疾患です。
卵管は、子宮から腹腔内へ伸びている管状の器官です。
発育した卵胞が排卵を迎えるとき、卵管は排卵した卵を吸い上げて子宮まで運ぶ役割を担っていますが、何らかの理由で水が溜まることで、様々な症状を引き起こします。
卵管留水腫の症状
- 大量のおりもの(おりものの色が赤褐色)
- 不正出血
- 下腹痛
- 発熱
など
卵管留水腫にかかった時のおりものは、赤褐色で、「さらさらした水様性」という特徴をしています。診察や問診では「不正出血がある」、「おりものが多い」と相談される方が多い傾向にあります。
特に、卵管液の分泌は女性ホルモンの上昇とともに増えるため、大量のおりものは排卵期周辺に出現することが多いです。対して、腹痛や発熱などの症状は、卵管内容液への感染が起きないとなかなか現れません。
卵管留水腫と不妊・流産
卵管留水腫になると、排卵した卵子がピックアップされない「ピックアップ障害」が起きやすくなります。そのため、不妊症へ繋がるケースが多々あります。
また。1994年に、卵管留水腫にかかると体外受精の妊娠成績が悪くなるという研究報告が初めて行われました。
卵管留水腫にかかっている方が、体外受精の妊娠成績が悪い理由として、以下の説が指摘されています。
- 貯留した卵管内容液が、胚に対する毒性を持っている説(胚毒性)
- 子宮内膜の着床能を低下させる説(内膜毒性)
- 内容液が胚を子宮外へ押し流してしまうという説
ちなみに、無治療の卵管留水腫があった場合は、胚移植あたりの妊娠率が1/2程度まで低下すると報告されています。
妊娠反応が陽性でも 流産・子宮外妊娠率が高くなる
妊娠反応が陽性でも、卵管留水腫があると流産率と子宮外妊娠率が高くなるという報告があります。卵管留水腫がある場合、胚移植あたりの出産まで到達できる確率は、1/4以下だと言われています。
卵管留水腫の治療
治療は、以下の方法で行います。
卵管開口術
卵管の癒着部分を切り離して、再びつなぎ合わせる方法
卵管切除術
卵管間質部と卵管峡部の移行部で、子宮から卵管を切って卵管を摘出する方法
卵管クリッピング術
卵管間質部から卵管峡部に金属(またはプラスチック製)のクリップで固定して、卵管内容液の子宮への流入を防ぐ方法
卵管内容液穿刺(せんし)吸引術
経腟超音波ガイド下に、卵管留水腫を針で刺し、内容液を吸い取って除去する方法
- 卵管開口術と卵管切除術、卵管クリッピング術は現在、腹腔鏡手術で行うことが増えています。ただし、癒着が強い場合は開腹術で行います。
- 卵管内容液穿刺吸引術は、局所麻酔で行えるため、入院の必要はありません。
- 卵管切除術と卵管クリッピング術を両方の卵管に行った場合は、残念ながら自然妊娠ができなくなります。卵管開口術の場合は、自然妊娠の可能性はゼロではないものの、術後の妊娠成績は13~25%程度で、子宮外妊娠の割合も高くなると言われています。
- 卵管内容液穿刺吸引術は、胚移植後の成績を向上させるために選択されるケースが多いのですが、施術3日後には約12%、7日後には約31%の割合で、卵管留水腫の再発が起きたというデータもあることから、当院では勧めていません。